世界で広がりをみせる「冬期湛水農法」で200年の伝統を誇るスペイン・バレンシアの田んぼ

冬期湛水農法の利点

  • エル・パルマール村
  • ラウル・マグロナールさん

塩害を克服するために導入された冬期湛水農法には、いまではさまざまな利点が見出されています。

バレンシアの中でも、パエリア発祥の地として有名なエル・パルマール村。この地で農業に取り組み、レストランも営むラウル・マグロナールさんにお話をお伺いしました。マグロナールさんもガルシアさんと同じく、12歳から38年間米作りをしているそうです。

マグロナール「学校の休みの日や、6月の休校の時期に米作りを手伝っていました。子どもが苗を運び、大人が田植えをしたりしていました。米を作っているのは8ヘクタールで、パエリア用にジャポニカ米を3種類作り、昨年は53トンの収穫がありました」

マグロナール「冬期に水を湛えると、収穫量が1ヘクタールにつき約1,200キログラム程度増えます。鳥が集まるのも、良いことです。水鳥とか、自然環境を保護する目的もあります」

  • 田んぼに訪れる鳥1
  • 田んぼに訪れる鳥2

田んぼに水を張っていると鳥の住処となり、そのフンが肥料になったり、イトミミズが増えてトロトロとした土の層を作り、雑草の種が埋もれて発芽しにくくなるなど、収穫量アップに貢献します。冬期湛水農法は、生物多様性を守る環境調和型農業であると言えます。

散歩道にも指定

水のある風景は心を癒し、散歩道にも指定されています。
マグロナール「バレンシアでは、ワラを燃やすのは禁じられています。環境汚染に対する取り組みとしても、冬期に水を湛えて、ワラを腐敗させるのは良いことです」

ファンゲアールとペレジョナ

  • マグロナールさんの田んぼ1
  • マグロナールさんの田んぼ2

ここがマグロナールさんの田んぼです。やはり湖のようになっています。

バレンシアではこの時期、ファンゲアールという作業を行います。泥をかき混ぜて、稲の株やワラを土の中に埋め込みます。ファンゲオは「泥」という意味です。ファンゲアールという美しい響きのこの言葉は、辞書には載っていないこの地方特有の言葉のようです。

  • 籠のようなインプルメント
  • インプルメント

ファンゲアールに使用する農機具には2種類あります。左の写真の籠のようなインプルメントをトラクタの後輪に装着して土をかき混ぜる方法と、右の写真のインプルメントをトラクタの後部に取り付けて牽引して土をかき混ぜる方法です。マグロナールさんは、右の写真のインプルメントを使用する方法が好みだそうです。

  • ファンゲアール前。土のでこぼこがかなりあります。
  • ファンゲアール後。土がならされています。

左の写真がファンゲアール前の田んぼ、右の写真がファンゲアール後の田んぼです。右の写真の田んぼは、マグロナールさんの好みの状態に仕上がっているそうです。日本の田んぼの田起こしに似ていますが、水が入っており、稲の株やワラを埋め込むところは代掻きに似ています。

マグロナール「種籾は5月に撒きます。種籾の袋に水を入れて吸水させ、風で飛ばないように重くしてから撒きます」

直播きが一般的で、田植えをするケースは少ないそうです。しかし、マグロナールさんは4年前から田植えを始めたそうです。

マグロナール「5年前に、カモに種籾を食べられてしまって、収穫量が半分以下になりました。それからは、田植えをしています。田植えは6月で、刈り取りは9月です」

  • 種籾や肥料を撒く農機具1
  • 種籾や肥料を撒く農機具2

これは、種籾や肥料を撒く農機具です。

  • 倉庫1
  • 倉庫2

マグロナールさんの倉庫です。冷房して13〜14度の低温でお米を保管し、品質を保ちます。

マグロナール「バレンシアのお米は、質がとても良いです。100グラムに対して、高品質の米が60グラム程度がとれます。残りの40グラムは粉にしたり、家畜用にします」

11月になると再び、田んぼにいっせいに水を入れます。水を入れる農作業は、ペレジョナと呼ばれています。

70年前の田んぼ作り

バレンシアには、9世紀にアラビア人が稲作技術と灌漑技術、そして猟師が獲物と一緒にお米を煮込んだパエリアをもたらしたと伝えられています。バレンシアの人々は、この地で田んぼ作りと米作りを始めました。

  • 田んぼを作るために泥を運んだ舟1
  • 田んぼを作るために泥を運んだ舟2

レストランに飾ってあったこの写真は、マグロナールさんの祖父の時代の田んぼ作りの様子です。この舟を使用してバレンシアの水源地、アルブフェラ湖を田んぼに作りかえていったそうです。

マグロナール「この舟は、田んぼを作るために泥を運んだ舟です」

  • 葦の壁の図
  • 湖底の泥をスコップですくう作業

マグロナールさんが図を描いて説明してくれました。アルブフェラ湖の一部に、葦(あし)で、図で青色に塗り潰してあるような壁を作ります。水深約1.5メートルの湖底の泥をスコップですくい、帆を張った舟で運び、この壁のなかを埋め立てていきます。現在のアルブフェラ湖の面積は当初の5分の1だそうで、実に5分の4が田んぼに作りかえらたそうです。

アルブフェラ湖

この広いアルブフェラ湖は、田んぼに作りかえられて、当初の5分の1の面積になっているそうです。

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