世界で広がりをみせる「冬期湛水農法」で200年の伝統を誇るスペイン・バレンシアの田んぼ

スペイン・バレンシア

日本をはじめアメリカ、韓国、中国、フランス、イタリアなど、いま世界各国で注目されている「冬期湛水農法 (とうきたんすいのうほう) 」。この農法を200年前から実践してきたのがスペインきっての米どころ・バレンシアです。塩害克服を契機に200年前に始まった「冬期湛水農法」には、いまではさまざまな利点が見出されています。

また、同地のアルブフェラ湖ほとりにある町エル・パルマールは、世界的に愛される米料理・パエリア発祥の地でもあります。起源はアラブで西暦9世紀以後、米作りとパエリアが同時に持ち込まれたようです。

バレンシアの農家の方、エル・パルマールでのレストラン経営兼農家の方のお話を中心に、この地の稲作、冬期湛水農法のさまざまな利点やその手法、食文化、そして「日本と似ている」と言われているバレンシアの気風などをレポートします。

「乾田馬耕 (かんでんばこう) 」

明治時代の中期までは、一年中水を湛えた湿田がほとんどでしたが、その後、「乾田馬耕」が推奨されます。乾田とは、秋に田んぼの水を抜き、深く耕して土を乾かし、肥料分となる窒素を増やして収穫量をアップさせる手法です。深く耕すために、従来の人力による鍬 (くわ) での田起こしではなく、牛や馬の力を用いる「馬耕」とセットで推奨されました。

乾田馬耕

一方で、1684年に会津藩の村瀬与次右衛門が著した「会津農書」では「田冬水」が紹介されています。冬の田んぼに水を湛えると「川ごみ (有機物) が発酵して良い」とあり、冬期湛水農法が推奨されています。

スペインきっての米どころ・バレンシア

スペインの国土面積は日本の約1.3倍、EUの主要農業国の一つで農業生産額はフランス、ドイツ、イタリアに次いでEU第4位です。主要農産物は葡萄 (524万トン) 、オリーブ (363万トン) 、柑橘類 (293万トン) であり、米の生産量は約90万トンと、突出しているわけではありません。 (2012年、農林水産省のホームページより)

しかし、スペインきっての米どころであり、世界的に知られる米料理・パエリア発祥の地であるバレンシアでは、お米に対する特別な愛着があるようです。バレンシアのシェーカー村の農家ホセ・ルイス・マトセス・ガルシアさんにお話をお伺いしました。

ガルシア「この村は、ほとんどが稲作農家です。私も、お米だけを作っています。曾祖父の代から米作りをしており、私自身も12歳のときから60年間、米を作っています」 バレンシアの米作りの特長についてお聞きしました。 ガルシア「米作りは、楽しいですね。一年を通じて天候もおだやかで、米作りには最適な地域です」 地中海性気候で温暖なバレンシアは、首都マドリッドから近いビーチリゾートでもあり、夏場は午後10時頃まで明るいようです。 ガルシア「ただし、EUは農薬については大変厳しいですから、気を使っています」

ホセ・ルイス・マトセス・ガルシアさん

200年前に塩害対策として冬期湛水農法を導入

  • ガルシアさんの田んぼ
  • 水口

ここが、ガルシアさんの田んぼです。広大な田んぼに水を湛えて、まるで湖のようになっています。水中には確かに田んぼがあり、水口 (みなくち) も見えています。

  • 農業用の小屋
  • 乾いた田んぼ

農業用の小屋も湖に浮んでいるように見えます。水を入れていない、乾いた田んぼもあります。これは水不足のために、水を入れることができないことによるそうです。

ガルシア「順番に水を入れて、どの田んぼも湛水します。水門の開け閉めでコントロールして、順番に水を入れます。水がないと、塩が上がってきます」

  • アルブフェラ湖から東へ約2km程で地中海です。
  • アルブフェラ湖と地中海を結ぶ水路

200年前、この地で冬期湛水農法が導入された直接のきっかけは塩害対策です。バレンシアは地中海沿岸であり、水源地であるアルブフェラ湖にも海水が入る場合があります。かつて乾田の頃に、地下に溜まった塩分が毛細管現象によって土の表層に現れて作物が育たなくなる塩害が発生し、その克服のために導入されたと伝えられています。

右の写真はアルブフェラ湖と地中海を結ぶ水路で、水門で遮断されています。

  • モーター1
  • モーター2

田んぼの水の出し入れは、小屋に設置したモーターでもコントロールします。

ガルシア「1月には水を抜き、5月になるとまた水を入れます。夏場は水が不足するため、水門に鍵をかけます」

水門

水門には、水量を調節するための目盛りとなる穴が開けられています。
ガルシア「農業組合があって、今年は水が少ないので、一つ目の穴にしなさい、といった指示がきます」

  • この寺院の扉の前で水裁判が開かれます。
  • 水瓶を持った天使の像が、扉の上部に彫り込まれています。

バレンシアには、毎週木曜日に、この寺院の扉の前で水裁判が開かれるという伝統行事が残っています。1,000年間続いている行事で、ユネスコの無形文化遺産になっています。

  • 農業機械置場と倉庫1
  • 農業機械置場と倉庫2

ここはガルシアさんの農業機械置場と倉庫がある場所です。左の写真の右側の方がガルシアさんの弟のフランシスコ・マトセス・ガルシアさんです。

  • 倉庫
  • 乾燥中の籾

農業機械置場の隣が倉庫で、ここでは籾を乾燥させているそうです。ご兄弟の農地は約75ヘクタールで、この倉庫には約800トンのお米があります。

ガルシア「ここから精米所に持って行き、精米し、袋詰めして出荷します」

ガルシアさんに、好きな米料理をお聞きすると、「それは、パエリアです」とのことでした。

  • アルブフェラ湖
  • アルブフェラ湖

ここが水源地のアルブフェラ湖です。スペイン最大の湖で、アルブフェラはアラビア語で「小さな海」という意味だそうです。灌漑用水路に水門が設置されていました。水鳥が集まるバードウォッチングの名所でもあり、国立公園に指定されています。

  • 国立公園に指定

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