第八話「からくり童子」

第八話「からくり童子」

今は昔、高陽親王 (かやのみこ) と申上げるかたがいらっしゃいました。このかたは特別な才能に恵まれておられました。こまかな細工 (さいく) に長 (た) けた工芸家でいらしたのです。

からくりのしかけが、とてもお上手 (じょうず) でいらしたのですよ。

この親王は京極寺 (きょうごくじ) というお寺をお建てになったかたですが、このお寺の前の賀茂川河原にある田はお寺の領地でした。

ある年、国中に日照りががつづいて、水が涸れ、どのたんぼも干 (ひ) あがって稲の苗は赤くなりそうでした。高揚親王はいろいろ対策を考えられました。遠くから水を引いてくるのも、たくさんの人手が要り、この炎天下 (えんてんか) では苦労なこと、みんなが喜んで水を運んでくれるにはどうすればいいか?

(うん、これでいこう!)

親王はおひざを打ってにっこりなさいました。

…まず、身の丈 (たけ) 四尺 (一メートル二十センチあまり) ほどの童子 (どうじ) (男の子) が両手に水桶 (おけ) を捧げて立っている人形を作られ、田の中に立てられたのです。さて、どんなからくりをしかけられたのでしょう。

「水桶に水を入れてごらん」

親王のお言葉で、人が童子の捧げ持つ水桶に水をいっぱい入れると、童子はそれを自分の顔へざぶりとかけます。人々はおどろき、また水桶に水を満たすと、童子の腕はおのずと動いてまた顔へ流しかけます。

「こりゃ面白い。わはは」

「わしにもさせてくれ、こりゃ、たまげた」

「あたしにも、させてくださいな」

人々が面白がって水を汲んできては、童子の水桶に水を満たし、顔に流しかけ流しかけするさまを楽しみました。

このニュースはたちまち、京 (みやこ) じゅうにひろまり、かわいい水かけ童子を見ようと、人々は水を汲んで集まって来ました。童子がざぶりと水をかけると、人々は歓声をあげ、手を叩いて笑い、次々に水が桶にそそがれます。やがて水はしたたり落ちたんぼに水が張られました。

親王はそこで童子を取りのけられました。

またたんぼが乾いてくると、再び童子を据えられます。

「今日は水かけ童子が出ているぞ!」

という声に、人々は水を汲んでたんぼへかけつけます。次々に水を満たすと童子はそのたびに水を顔にかけます。母の背に負われた子供も、それを見て指さして喜び、人々も飽かずに楽しみました。

…そして再び、たんぼに水は満ちたので、お寺のたんぼは焼けずにすみました。

人を楽しませて水を運ばせる……という計画が成功したのは、親王のすぐれた細工上手のおかげと、みなみな、ほめそやしたそうです。

第七話「海からの贈り物」

第九話「猫怖じ大夫」