第六話「竜神の雨」

第六話「竜神の雨」

今は昔、中納言 (ちゅうなごん) (昔の官名。大 (だい) 納言に次ぐ高官で、国政にタッチします) の、大神 (おおみわ) の高市麿 (たけちまろ) という人がいました。生れつき心正しく聡明で、学問深く、さまざまのことに通じていました。

あるとき、雨が長いこと降らず、国中で水が涸 (か) れ、日照りがはげしく、人民が困ったことがありました。このとき高市麿は、自分のたんぼの取り入れ口をふさぎ、人々の田に水を入れさせました。人々の田はうるおいましたが、高市麿の田は干 (ひ) あがって、稲は枯れました。このように、高市麿は自分のことはさておき、人民のことをまず考えるという人でした。

その気持が天の神のお心にかなったのでしょうか。あるとき、

「おお、久しぶりの雨だ!」

という声に、人々が空を見上げると、青空に一点の雨雲、そこから、ざあざあとそそがれる雨のしぶき。更に人々を驚かせたのは、

「ややっ、高市麿さまのたんぼに雨が降っているぞ」

「見い、高市麿さまのたんぼだけではないか」

「ご自分のたんぼはおいて、わしらのたんぼに水を恵んで下さったお心を…」

「神さまが賞 (め) でられて雨を降らされたのか」

「竜神さまが降らせなさった。あれは竜神さまの雨じゃっ」

人々が高市麿のたんぼをとりまいて、大さわぎするうちに、乾いてひび割れたたんぼはうるおい、雨に打たれた稲が、喜々として、起き直ります。稲もたんぼもよみがえったのです。

人々は、高市麿の心正しさ、私利私欲のよこしまごころのないことに、天の神も感応 (かんのう) されたと信じました。

第五話「蛇酒」

第七話「海からの贈り物」